医療廃棄物の分別が防ぐ二つのリスク―適切な処理方法とは

かつては使い回しや不法投棄が大きな問題となった医療廃棄物。これらは今、どのようなルールによって処理されるようになっているのでしょうか。医療廃棄物の処理方法と、その重要性についてご紹介します。

なぜ特別?医療廃棄物の処理

医療は多くの人を怪我や病気から救い、人間の生活を豊かにしています。その一方で、医療に使用した器具や道具は、適切な方法で処理されないことで、別の場所で不幸を生んでしまうことがあります。

例えばエボラ出血熱やジカウイルス感染症は、国際的に驚異となる感染症です。これらの感染症は西アフリカや中南米地域で、感染拡大を防ぐための適切な処置が行われなかったことから、多数の人に健康被害と社会的影響をもたらしました。こういった感染症の拡大を防ぐ意味でも、医療廃棄物は特別な処理方法が必要なのです。

また、医療廃棄物が適切に処理されずに生み出された不幸は、感染だけではありません。1996年千葉県で、30トンもの感染性医療廃棄物が、不法投棄されているのが見つかりました。これらは複数の有名病院からの廃棄物であることが判明し、大きな社会問題となりました。

1997年には京都府の海岸に針付きを含む大量の注射器が流れ着き、1999年には栃木県からフィリピンへ輸出された産業廃棄物の中から、医療廃棄物が発見されました。2002年には青森県と岩手県にまたがる広範囲に、大量の産業廃棄物と医療廃棄物が不法投棄されているのが見つかり、大事件となりました。この事件では、10,000社以上もの排出事業者に報告徴収を行い、原状回復のために700億円もの費用が投じられました。

このような医療廃棄物の不法投棄による大きな社会問題を受け、今では明確化されたガイドラインが作られています。そのひとつが、2009年に社団法人全国産業廃棄物連合会によってまとめられた「医療廃棄物処理の基礎知識」です。また、2004年には環境省により「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」が策定、2018年に改訂版が発行されています。これらはいずれも、医療従事者から収集運搬業者、処分業者までが活用できる、医療廃棄物をどのように取り扱うかを示したものです。医療機関でも遵守が徹底され、職員一人ひとりが強い意識を持って適切な方法で処理されています。

医療廃棄物の分別が持つ二つの重要性

このようなガイドラインにより、医療廃棄物の分別とその判断基準が明確化されているのはなぜでしょうか。それには医療廃棄物の分別に、二つの大きな意味があるからです。

感染の問題

医療廃棄物が他の廃棄物と異なり、特別な配慮が求められる理由とは何でしょうか。それは、感染性の有無です。医療廃棄物には、注射針のように先端の尖っているものもあり、それにより針刺しや切創といった事故につながる恐れもあります。これらは感染リスクに直結するものであり、適切な処理が必要な廃棄物です。

しかし、感染性の有無によって処理方法が変わるものもあります。例えば、処置や手術で使うディスポーザブル(使い捨て)の手袋は、一般の産業廃棄物として分類されます。ところが、血液が付着した場合は感染性のあるものとして、特別管理産業廃棄物に分類されるのです。また、包帯やガーゼの場合は、一般の産業廃棄物とされていますが、血液のような液体が付着した場合は、特別管理一般廃棄物に分類されることになります。

このように、感染性の有無によって分類を変える必要があるものには、客観的な基準が必要です。これらを明確化するためにも、ガイドラインが必要なのです。

お金の問題

客観的な基準の必要性には、廃棄物を処理するためのコストも影響しています。

例えば感染性のある医療廃棄物の場合、20L容器一つの処理料金が3,000円以上するのが一般的です。一病棟にこの容器が一つあり、3日でいっぱいになるとします。大きな病院で病棟が10あったとすると、1ヶ月の処分料は30万円になります。しかし一般の産業廃棄物であれば、自治体の定めたルールに則り、事業系ごみとして処理することが可能です。この場合、上の例と同量の廃棄物を処理するのにかかる費用は、3万円以下となります。

このように、廃棄物の処理方法によって大きな金額の違いが出てくるのです。そのため、適切に分別しなければ医療機関の経営を圧迫する要因となり、費用を抑えることを優先し不法投棄につながる恐れもあります。こういった理由からも、分別についての明確な基準と、なぜ分別が必要なのかを理解するための周知が重要となってくるのです。

医療廃棄物を適切に処理するために

では医療廃棄物の適切な処理として、どのような方法があるのでしょうか。例えば感染性廃棄物では、次のような容器を使用するよう、ガイドラインに記されています。

  • 密閉できる
  • 収納しやすい
  • 損傷しにくい
  • バイオハザードマークの表示をしている

こういった条件を満たす容器は、医療機関向けの資材として販売されていて、プラスチック製の白い容器やダンボール製のものが一般的です。

また、回収から運搬、保管、焼却まで、トレーサビリティを確保した管理を行う企業もあります。ある企業では、医療機関から医療廃棄物を預かり、保冷車両で収集運搬、大型冷蔵保管倉庫で保管、自動倉庫で供給し自動投入装置で焼却処理を行っています。

このように、医療廃棄物の処理についての意識の高まりとともに、重要視されるのは医療機関内での分別だけでなくなってきています。処理業者によるその後の適正な物流と、安全を考慮したマテハンも含めた管理も、重要になっているのです。

医療廃棄物の適切な分別と物流を

医療廃棄物の処理方法が重要な理由と、分別だけでなく、その後の処理が重要度を増している理由についてご紹介しました。かつて、医療廃棄物の不法投棄は大きな社会問題となりました。また、感染性のある医療廃棄物が適切に処理されていなければ、予想外の経路から感染拡大といった大きなリスクが発生する可能性もあります。医療廃棄物の分別に加え、その後の物流も含めた適切な処理をすることが、より重要となっているのです。

参考:

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